鯖の駅
北緯40度30分
海域指定エリアで獲られたものしか命名されない「八戸前沖サバ」 GPSの示す数値は奇跡的なジャスト!
とてつもないロマンを感じさせる響きだと感じた。
単に「お店を作る」という一般的スムーズさとは
全くかけ離れたアプローチがしてみたいと思い
まずは「北緯40度30分」に行ってみようと思った。
いろいろ考えるのはそれからでもいいだろうと
相手が海だからか、大きな気分が寄せて来ている気がした。
八戸の店
今やどこに行っても大手チェーン系の居酒屋があり、お店は立派な作りでスタッフの応対も標準化されています。しかも、そういうサービスに客側も慣れてきているので「地元のお店」は一見苦戦を強いられているかのように映ります。
「癖の強すぎない田舎度」を人との関わり合いから探してみることに。
巻き網漁船
真っ先に「体当たり」を試みたのは造船所。すると偶然にも巻き網漁船の船長さんと知り合い、いろいろな話とともに「使わない部品なら、タダでくれてやる」という願ってもないステキな事態に。
” ボール・ローラー” という部分をカウンターの上にディスプレイとして使ってみることにしました。
素材を探す
”海パーツ”はいいものが手に入りかけていたので、今度は建築材の番。「ひなびた浜小屋」のイメージに偏りすぎると「おんぼろ」になってしまいかねないので、リッチなものも必要です。
今回は本物の「ヴェネチアンモザイクタイル」と「使用済み足場板」のコントラストで勝負です。
ボールローラー
巻き網漁船は左右一対になって網を流し、この機械を使って巻き上げるそうです。タイヤのようなゴムの部分が微妙に傾いていて網が絡まない仕組みになっているそうです。
プロの使う「道具」の美しさは異彩を放っていて、工業製品としての機能美が木質系のお店に緊張感を与えています。
陸の風景
連結できる座敷の壁面は最初からこれに決めていました。「海から見た陸の風景」です。お店のカウンターは漁船の手摺部分と考え、客は海の側にいて、サバの気持ちになって食事を頂く・・という発想です。なので主は「船長」なのです。
撮ってきた写真を見せて、2度ほど作り直させて今の姿があります。
足場板
建築工事ではお馴染みの足場板。朽ちた感じはこの上ない良い表情をしています。新品よりも「過ごした時間」のある物を美術館のショーケースに納めるように、地場の杉の柱で挟み込みました。もちろん一旦しっかりと洗浄して、無公害水性塗料で仕上げてあるので安心です。一枚一枚の配置まで気を遣いました。
設計の裏話
■以前から「サバの専門店を持ちたい」との話があり、気の向かないテナントの時など全く手を付けないで時間が過ぎるのを待っていたりしたことも、今では笑い話になりました。なかなか恐ろしい事をしていたものです。しかし、それほど街中に新規の料理店を出すということの勝算は難しいものだと感じていました。
「みろく横町」は希に見る成功を納めている現象です。これにあやかって、隣のビルが擬似的に横町通路を設けて一階の通りを良くしてみようという発想でテナントが募集されました。
「これなら行ける」
チェーン店には真似の出来ない店作りの発想が必要とされました。今風のパーツの組合せではなく、もっとドロくさくて、地に足の着いた馬力が必要です。
結果、発想の原点に帰り、設計者自らが八戸の各所に体当たりで向かい合ってみる事で迫力を求めました。
多くの人たちと関わり合いを持ち、協力を得て「手あか」を飾ることが出来れば、いやおうなしに面白さは滲み出てくるはずだと信じて。